著者 東野圭吾
発行所 株式会社幻冬舎
定価 本体730円+税
概要
娘の小学校受験が済んだら離婚、そう決意した播磨夫妻に悲劇が起きる。長女がプールで溺れ、意識不明となった。生命活動はしているものの、回復の見込みはほとんどなく、「脳死」であるだろうと診断される。診断結果、つまり娘の死を受け入れ、臓器移植の手続きを決めた二人。しかし、直前に感じた生体反応から、最新設備を用いての生命維持を選択する。
生命に対する倫理感と、母親の狂気ともいえる我が子への愛を書いた物語です。
感想
何をもって「死」とするのか。ヒトとしての「生」とはなにか。結論がでないであろう議題ですね。こういう存在の根本を考えさせられる話は、個人的に興味があります。
手塚治虫著作の『ブラックジャック』でも、植物人間の老婆を延命装置につなぐという話がありましたね。幼い孫が、莫大な費用がかかる延命措置への抗議の遺書を残し、自殺を図る、という出だしから始まります。
今回の物語では、単に生命を維持させるだけではない、子供を「成長」させられる設備を使っています。身長は伸びますし、筋力もつきます。それを見た母親以外の親族は、そのやり方に生命への冒涜を感じるのです。
自分はどちらかといえば延命措置をしない、「尊厳死」を重視する立場です。ただ今作では子供が不慮の事故で植物人間になってしまっていますからね、少しでも可能性があるなら(費用の問題もありますが)、一縷の望みに託すのも無理はないでしょう。
特に面白かった所
祖母の立場ですね。そもそも長女が「おそらく脳死」状態になってしまった事故に、祖母が付き添いで行っていました。自分がちゃんと見ていれば。そう自分を追い込んでしまうでしょう。その後悔と良心の呵責からか、かいがいしく長女の世話をします。母親を除いて、延命治療を支持する唯一の親族となりました。
祖母の心情を慮ると、頭を抱えてしまいましたね。祖母からすると、長女の世話をすることが罪滅ぼしになるんでしょうが、これには終わりが見えませんし、回復する希望も薄い。かといって長女の死を認めると、それに再び向き合うことになる。
残酷だと感じられる状態です、
コメント