著者 片田珠美
発行所 NHK出版
概要
自らが正しいと思った感覚がエスカレートし、排外的な言動をとる人が増えているように見えます。店員や芸能人、障がい者もその対象となります。
本書では、主に以下の事例を取り上げながら「歪んだ正義感」について論じています。
2016年、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた殺人事件や、透析患者、生活保護時給者へのバッシングなどです。
感想
2017年に刊行された本ですが、5年経った今でも状況は変わっていないですね。
2019年、京都アニメーション放火殺人事件。2021年、京王線刺傷事件。同年、北新地ビル放火殺人事件。思い付くだけでも、これだけの世間を共感させた事件が起きました。
思い込みによる他責型の犯行もあれば、自らの境遇に悲観して他社を巻き込もうとする破滅型のものもあるように思います。
本書では、歪んだ正義感を抱く要因の一つとして、「コスパ」を挙げています。費用対効果が高いものが至上とされ、逆に「コスパ」が悪いものは忌避される。それこそ「悪」と捉えられる風潮があります。
津久井やまゆり園の事件では、犯人が「障がい者は生きていても無駄だ」という主張があったようです。人工透析患者へのバッシングでも、透析患者にかかる保険費用に憤慨しています(あくまで怠惰な生活を送った結果、透析が必要となった「自業自得」とされる患者への怒りのようです)。これらは「コスパ」至上主義にとらわれているのではないかというものです。
自分は普段の生活において、コスパは重視しているものの一つです。コストを抑えつつ、生活満足度を上げることは、生活を豊かにします。ただ、その対象を人間に向けてしまうのは、危険な思想であると思います。端的に言えば、非生産的な人間は生きる価値がない、という考えです。それはかつてナチスが唱えた「優生思想」であり、差別につながります。コスパを重視するあまりに、いわゆる「弱者」を排する社会が健全なはずがありません。それらを包括して、各々が幸せに暮らせる社会こそ、人類が目指すダイバーシティ社会ではないでしょうか。
特に面白かった所
産業構造が製造業からサービス業に移行したことにより、発達障害の問題が顕著になったという記述です。本書では、普通に生きることが難しくなり、絶望して自暴自棄に陥った者が凶行に至る可能性がある、という論旨です。
一概には言えませんが、職人気質で、こだわりがプラスに作用しやすい製造業と、顧客の要望に臨機応変に対応する能力が求められるサービス業。人付き合いと変化が苦手とされる発達障害を持つ方たちには、後者は合わない可能性が高いですね。昔なら「個性」として捉えられ、普通に生きていた人が、今は職場不適合者として扱われることもある。
うーん、問題は見えているのに、解決策が思いつかないですね。製造業を増やせ、というわけにもいかないでしょうし。どうしても個人の頑張りに託すしかないような・・・。
オススメする方は
- 昨今の行き過ぎた正義論に疑問を持っている方
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