『孤独を生きる』

著者 齋藤孝
発行所 株式会社PHP研究所
定価 本体1000円+税

概要

SNSで人と繋がることが当たり前とされているこの時代、「孤独」というものはとかく悪いものと思われがちです。しかし本来「孤独」とは、自分を成長させるために必要な時間です。自らの意思で独りを選択する「単独者」として自分を磨く。その方法をレクチャーした一冊です。

感想

独りの時間をマイナスに捉えずに強く生きる。現代人に必須のスキルだと言えますね。

現代は人との繋がりにおいて、アンビバレンスな状態になっているのではないでしょうか。
一昔前に比べると、一人の過ごし方は多様になってきたように思います。一人カラオケや一人焼肉が定着したように、一人で遊ぶという事に対してのハードルは下がっています。映画や音楽のサブスクも充実しており、一人で楽しめるコンテンツが充実してきました。
かといって、独りを満喫している方を「リア充」とは言わないでしょう。友達や仲間と楽しむことの方が良いとされる傾向にあり、一匹狼は死語になりつつあります。

そんな中で、孤独感に浸らないための生き方を著書がレクチャーしています。

本は孤独を打ち消す

「私淑」という言葉があります。直接師事を受けることができなくても、その人の言葉や生き様を通して学ぶ、「心の師匠」として教えを乞う行為を指します。本は、私淑を行うための最適な方法の一つです。私淑を通じて、一人で行っているはずの学びでも孤独感に浸らなくなります。
著者は読書の有用性を別の著作でも語っています。そんな著者が本作で述べる、孤独を感じないための読書のコツは以下の三点です

  1. 著者の生きた時間を「著者とともに共有する感覚」で読む
  2. 「主人公と共に成長する」つもりで読む
  3. ”孤独の十字架”を背負ってもらう

著者や登場人物の心情に近づきつつ、自分事として捉える。それでありながら、自分が体験したら潰れてしまうであろう出来事への懊悩等の要素を味わう。学びながら感情を動かされる、そういった読書ができているのならば、孤独を感じている暇などないでしょう。

推しは必要か?

本著では、自分にとってお気に入りのアイドルやアーティスト、いわゆる「推し」がいると、独りでも孤独感が生まれず、生活が豊かになるというものです。この点についてはその通りだと思うのですが、「推し」が生まれることについての弊害も感じます。

  • 周りを疎かにしがちになる
    自分の推しを優先的に考えすぎて、周りとの調和がとれなくなる可能性が高くなるという事があります。アイドルのイベントに出るために仕事を休む、食費や生活費をギリギリまで削ってグッズを買う。
    本人は節度を守っていると思っているのでしょうが、端から見ると常軌を逸しているように見える時があります。同僚や伴侶だと、苦言を呈したい程のものである場合もあるでしょう。自分のパートナーが生活費を脅かす程に、ギャンブルやブランド物の高級品に費やしている状態を想像してもらえればわかりやすいと思います。
  • 自分も疎かになりがちになる
    推しにお金と時間を使うという事は、それだけのリソースを自分に使えていないことになります。その結果、推しへの理解は深まり、グッズは増えたものの、自分自身は何も変わっていないということになります。個人的にこれはかなり怖いことだと感じます。なまじ毎日の生活に充実感があるので、自分の成長に目が向かなくなるのです。
    アイドルに年何万、何十万と費やしている知人を知っていますが、服装には気を遣っていなかったり、何か勉強しているわけではないようでした。推しに使うリソースの半分くらいは自己投資やほかの何かに使った方が、人生がもっと豊かになるのではないかと議論したこともあります。

「推し」自体、生活に張りが出るという点で有用なものでしょう。「自分が楽しめているから口出しされる必要がない」と言われれば、ぐうの音もでません。しかし、友人と同じように、推しとも適切な距離感が大事なような気がします。友や伴侶、そして自分自身を「推し」とする考えも肝要です。

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